「あがりを克服する〜ヴァイオリンを楽にひきこなすために〜」

7日間ブックカバーチャレンジ2日目です。

今日ご紹介するのはこちらの本。

カトー・ハヴァシュ著の「あがりを克服する~ヴァイオリンを楽に弾きこなすために~」
です。
なんか、ストレートなタイトルでちょっとドキッとしますよね~。
演奏家の方あるあるかもしれないんですけど、「あがり」についてテーマにするのは恥ずかしい、というかちょっとタブーのような雰囲気があったりしませんか?
でも、世の中に「あがり」という神出鬼没かつ予想不可能な訪問者に悩まされていない演奏家って、一体どれくらいいるんでしょう?
わたしがこの悪魔に悩まされたのは10代後半から20代前半くらいかしら。
子どものころのわたしは、自分自身が「あがる」ということを知らなかったんです。
と、いうのはコンクールを受けたこともなかったし、発表会もほとんどないお教室の生徒だったので、「人前で弾く」っていう機会自体が全然なかったんですよね。
「わたし、緊張するんじゃん!」
って気づいたのはよりにもよって音楽高校の受験の日。
受験曲は1年くらい延々と準備してきた曲だから(笑)、当然隅から隅まで暗譜しているし、間違えようとしても間違えられないわ、くらいにできあがっていたはずなんです。
でも、使い古されて洗練された表現なんですが、まさに、まさに!
頭が真っ白になる
ってあれ!(笑)
あれがやってきてしまったんです。
目はチカチカするし、耳の奥で鼓動が高速で鳴るし。
幸運なことに受験に落ちることはなかったけれど、満足とはとても言い難い演奏になってしまって、そのあと談話室で大泣きしたことを覚えています(笑)。
高校、大学時代は、とにかくこの「あがり」との闘いだったような気がします。
せっかく何か月もかけて準備してきたものが、本番にひょっこりやってくるこの悪魔のせいで粉々に打ち砕かれてしまう気持ちといったら。。
「練習でどれだけできていたかなんて関係ないんだよ。本番で出るのが実力なんだから」
「本番で50%の力しか出せないんだったら、練習で200%まで準備しておかないといけません。そうしたら半分になっても本番100%で弾けるでしょう。」
当時の悩むわたしに与えられたアドバイスの多くは、結局わたしの心を追い込むものがほとんどで、状況は基本
悪化の一途(笑)
でございました。
わたしが一番谷底にいた時は、オーケストラのポップスコンサートでただ全音符を4拍伸ばすだけのところで、弓がぶるぶる震えてたくらいひどかった。(笑)
今になっては笑いごとだけど、その時は「もうやめるしかない!」って思ってたよー!
「あがり」は身体的な問題が原因のこともあるけど、たいていは精神的、社会的側面の問題のほうが大きいので、基本追い詰めるような発言は先生でも親でも、
ダメ・ゼッタイ
だと思うよ~。
この本の著者カトー・ハバシュさんは5歳でバイオリンをはじめて、7歳で初リサイタル。
その後ヨーロッパ各地で公演を行い17歳ではカーネギー・ホールデビューという、華々しい経歴を持っている天才バイオリニスト・・・
でした。
過去形で表現しなければならないのは、彼女もまた思春期に差し掛かったころに「あがり」という悪魔に捉えられてしまったから。
演奏をすることの孤独さに、たった18歳の彼女が出した答えは演奏活動から引退することでした。
悲しいストーリーのような気がしますが、結婚、子育てという平穏な生活をする中で彼女は「あがり」の研究をする時間を得て、その後研究者、教育者として音楽の世界に舞い戻ってきたのです。
「あがる」ことに苦しんでいたわたしは、先輩からこの本を勧めて頂いて読む機会を得ました。
はじめて読んだときは、
「やっとわたしの心をわかってくれる人がいた!」
とほっとするというか解放されたような気持になって涙を流したことを覚えています。
この本で良かったのは、やはり「あがり」の経験者である著者が

・あがりの症状
・あがりがどこからくるのかということを身体的、精神的、社会的側面に分けて分析
・解決法、練習法

を示してくれているということ。
一つ一つ実践していけば、自分に合った解決方法が見つかると思います。
カトー・ハヴァシュさんはバイオリニストなので、練習方法に関してはバイオリンに特化した内容が多いです。
でも精神的、社会的あがりの解決方法の項目ではバイオリン以外の楽器の人や、楽器に全然関係ない人、、たとえばスポーツ選手とかプレゼンであがって困っちゃってる人でも参考になるんじゃないかな。
この本を読んで、わたしが圧倒的に違いを実感したのは、読む前は
「楽器を演奏する時、音楽を外から楽器の中に押しこむ(インプット)」
ように弾いていたのが
「バイオリンの中から、音楽が外に流れ出る(アウトプット)」
イメージに変わったことかしら。
そもそも、わたしはなんのためにバイオリンを弾いてるんだ、っていうか音楽をしているんだ、っていう、自分に深く問いかけるような旅ができたのが良かったかな。
そうそう、この本はバイオリンは楽器を教えている先生にも、かなりお勧めの一冊だと思います!
自分の発した一言が、生徒に「あがり」の呪いをかけてしまう危険性もあるので。
言葉の力ってすごいよね。
このレビューをきっかけに、もう一度今日は初めから読み直してみようと思います。

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