バイオリンの指使いとチェンジポジションを考察してみたよ

先日レッスン中に

先生、音符の上に書いてある数字って何ですか?

という質問を受けました。

結論からさっくり言っちゃうと

バイオリンの楽譜の音符の上(下)に書いてある数字は指使い(運指)です。

バイオリンの指番号はピアノとは異なります。

ピアノは親指から順に1,2,3と数えていきますが、バイオリンは親指はカウントせず、人差し指から1,2,3と数えていきます。

なのでバイオリンの楽譜上では、5以上の数字を見かけないのですよね。

例外として0が書かれていることはあり得ます。これはフラジオレットという、特別な奏法を表す数字です。

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でもこのファの音って、E線の1の指で押さえる音ですよね?

なんで3と書いてあるのでしょう?

あ、なるほど。そういう質問だったのか。
楽譜の中に「何でこの指番号なの?」って謎に思う箇所があれば、それはチェンジポジションが謎を解くカギになってきますよ~。

チェンジポジションって何?

バイオリンのネックを支えている左手が、エレベーターのように場所を変えるテクニックです。

バイオリンを始めるときはまず、1のポジション(ファーストポジション)を習います。
それが自由に弾けるようになってから、ほかのポジションの練習も始めることになるんですね。

手のポジションが変われば、当然運指も変わってきます。

ちょっと下の表を見てみましょう

水色以外で、同じ色で書いてある音は、同じ音がします。

例えば、G線の3のポジションの3の指で押さえるミの音(緑)は、D線1のポジション1の指で押さえるミ全く同じ高さの音なんです。

下の写真で言うと、右のミも左のミも高さは同じです。

でも左のミは1の指で弾くので1のポジション、左は3の指で弾くので3のポジションで弾くように推奨されていることが読み取れます。

なんでわざわざ難しいポジションで弾く必要があるの?

なぜ同じ音なのに、わざわざ難しいポジションで弾かなければならないんでしょうか?

1のポジションで弾ける音なら、1のポジションで弾いたほうが簡単なのに

うんうん、そう思いますよね!

簡単なポジションで弾ける音なのに、わざわざ違う指(ポジション)で弾くのには、主に3つの理由があります

1.テクニック上、チェンジポジションしておかないとその後詰むから
2.特別な音色を追求したいから
3.音と音の距離を表現したいから
順番に見ていきましょうか。
1.テクニック上、チェンジポジションしておかないとその後詰むから

例として下の楽譜を見てみてください。


1のポジションで弾き始めますが、最後から4つめの音ラの指番号は1になっています。つまり、3のポジションで弾けという指示です。

このラの音は、1のポジションの3の指で弾くこともできるのに、なぜわざわざ3のポジションで弾かなければならないんでしょう?

もう、お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんね。
その通り!

最後2つの音、ド♯とレは1のポジションでは演奏することができない高さの音なのです。

つまり、このパッセージを弾こうと思ったらいつかは絶対に3のポジションに上がってこないといけないんですね。

そのため、安定して移動できる1の指でラをとることによって、前もって3のポジションに移動してきているのです。

2.特別な音色を追求したいから

さっき使った写真をもう一度見てみましょう。

この二つの音は、押さえている指とポジションが違うだけで全く同じ高さの音ですよね。

でも、決定的にこの2つの音には違うことがあるんです。

それは、音色です。

うっそー?

と思う人は、ぜひご自分で弾き比べてみてください。

低いポジションの音は明るくて済んだ音がしますし、高いポジションで弾くと大人びてセクシーな音がするのではないでしょうか?

初心者用の楽譜には、予め編者が指使いをふっておいてくれています。
でも、その指使いのほとんどは、作曲者によって書かれた指使いでないということを知っておいてください。

初心者用の指使いは演奏テクニックに支障が出ないように、簡単に弾けることに重点を置いてふってあるです。

だからそれが果たして作曲者がその指使いの音色を想定していたか、と言ったらそれはまた別の話なんです。

チェンジポジションを習って、一通りのポジションで演奏ができるようになったら、楽譜に振ってある指使いに疑問を持ってみましょう。

・なぜ、編者はその指使いを推奨したのでしょうか?
・それは、自分が追求する音色のでる指使いでしょうか?
・それは、作曲者が想定した効果の出る指使いでしょうか?

最終的には、自分自身でテクニック面と音色面を配慮して自分自身の指使いを決められるようになれれば素敵だと思います!

ここでは簡単に、指使い(ポジション)の違いによるメリット、デメリットを紹介しておきますね。

低いポジション、開放弦で弾くメリット

・音が澄んでいて明るい
・音がよく通ってよく聞こえる
・押さえやすい

低いポジション、開放弦で弾くデメリット

・音が無邪気すぎて子供っぽい響きになる危険性がある
・開放弦を使うとビブラートがかけづらい

高いポジションで弾くメリット

・大人びて柔らかい音色が出せる

高いポジションで弾くデメリット

・音がこもって通りづらくなる危険性がある
・音程を外しやすくなる危険性がある

例として一つユーチューブのリンクを貼っておきますね。
1分27秒地点から再生できるように設定してあるので、1分47秒くらいのバイオリン奏者たちの手の位置を確認してみてくだささい。

ピアノ協奏曲第2番(ラフマニノフ)

このフレーズは、本来ならば1のポジションで弾けてしまうメロディーです。
でも、奏者はずっとずっと高いポジションで演奏しているのがわかるでしょうか?
これはラフマニノフ自身が、A線で弾けば1のポジションで弾ける音をわざわざG線の高いポジションで弾くように指定しています。
そうすることにより、切迫する、訴えかけるような音色をラフマニノフは伝えたかったのではないかと思います。

3.音と音の距離を表現したいから

バイオリンやピアノで困ったこと。
それは、音と音の距離感を無視して演奏できてしまうことがあるんです。

どういうことか、説明していきますね。

下の表を見てみましょう。

右に書いてある楽譜のように「シファ♯」と弾きたいとします。

その時、どんな指使いをしたらいいでしょうか?

一番簡単なのは両方の音を1のポジションの1の指で弾いてしまうことです。

わざわざチェンジポジションをしなくていいし、すぐ隣なので、音程を外すリスクを避けることができます。

もう一つの可能性として、両方をA線で弾く方法があります。そのためには、ファ♯の音はチェンジポジションしてとらなくてはなりません。

リスクを冒してまでもファ♯をA線で弾くのは、やはり音色を柔らかくしたいからでしょうか?

それもありますが、今回は少し音程間に注目してみましょう。

シとファ♯の間には本来、ド、レ、ミの3音がありますよね。

自分が階段を3段飛ばしで4段目の階段にジャンプしなくてはならないと想定してください。

結構なジャンプをしなくちゃならないですよね。

それだけ、この音程間には距離があるということなんです。

それを両方1の指でお隣同士で弾いたとします。
すると、3段飛ばしという段差(距離感)を無視して同じ階であっという間にシからファ♯に移動してしまうことができます。

まるでワープです。

速く移動できてよいと思いますけど。

そうなんです。テクニカルな箇所では指が速く移動できて便利です。
でも、メロディーを歌う箇所では音と音の間を歌うことができなくなってしまうんです。

えーと、、音と音の間を歌うって何ですか、、、?

音と音の間、音程間を歌うということは、音楽を平たんにしないためにとても大切なことです。

オーストリアの建築家、画家であるフンデルトヴァッサーが

「直線に神は宿らない。直線は唯一神が創造しなかったものである」

と発言したように、自然のものには完全にまっすぐなものはありませんよね。

音楽も、平たんでまっすぐになってしまうと聞いていて不自然です。
音楽には起伏があり、それはいつも流動的で、うねって変化しています

さっきのように、本来は段差がある箇所を、ワープするように音程間を無視して弾いてしまうと、そこは平たんに聞こえてしまいます。

平たんに聞かせないためには、高いポジションにのぼってみましょう。自然に音程間を表現することができます

例を一つ貼っておきましょうか!

Ravel, M. Tzigane violin + orchestra

これはラヴェルのツィガーヌという曲ですが、8小節目後半に低いラから一オクターブ上のラに上がる場所があります。

この2つの音は、1のポジションだけで弾ける音ですが、ここでは上のラの音を5(または6)のポジションで演奏されています。

もちろんこれは、G線の音色をラヴェルが要求していたからでもある指使いですが、本来低いラから一オクターブ上のラまでは6段の階段を飛び越えていく必要があります。

1のポジションで演奏すると、この距離感を無視してつるっと弾けてしまいますが、それでは音楽の本来の起伏や流線をつぶしてしまうのです。

この演奏では1のポジションから5(または6)のポジションへの跳躍に若干の時間がかかっているのが聞こえますね。

こういう意図的な時間のロスが、音楽を自然に、起伏を持って聞かせてくれるんです。

一歩上のテクニック

でも、様々な事情から、音程間がある2つの音を同じポジションで弾きたい、という場面にでくわすこともあるでしょう。

そういうときは、時間をかけずにすぐに弾けてしまう箇所でも、わざとその2つの音の間にある音を想像して、それらの音を通りすぎる間、時間をかけて演奏することができます。

簡単に弾ける場所でも、わざと難しいように時間をかけて弾くんです。

かける時間は、自分が声楽家になったつもりで一度そのメロディーを歌ってみると、どのくらい時間をとったらよいかがわかってくると思います。

声で高い音を取りに行くときには、横隔膜がぐっと下がっていきませんか?

バイオリンを演奏するときも、歌を歌う時と同じように、高い音を取りにいくときは横隔膜をぐっと下げてみましょう。

どうでしょう、音と音の間を歌うことができたのではないでしょうか?

まとめ

ちょっとややこしいな、と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、考えようによってはバイオリンは追求する音を出すために、たくさんの選択肢があるということですよね!

バイオリンを弾いていれば一生飽きることがなさそうだと思いませんか?

指使いやポジションにもこだわって、たのしく自分の音楽を追求していきましょうね。

 

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