こんな「わかれ」は嫌だ!ってなる新しいバイオリン教本の練習曲

新しい曲をもらった時に、作曲家やタイトルに注目する人ってどれくらいいるでしょう?

わたしは、結構掘り下げたくなっちゃうタイプです。

あ。でも、そういえば子供のときはそうでもなかったな。

べリオの「シーン・ド・バレー(バレエの情景)」とか、

「シンドバレー」

って名前の曲だと思ってたし(笑)

そして、それが何なのかも気になってなかったし。

もしも子どもの時に、それが「バレエの情景」という意味だと分かっていたら、どんなバレエのお話なんだろう、どんなダンスなんだろうと想像を膨らませられたと思うんですよね。

でも、実際は大人になってから、

「シーン・ド・バレーなんじゃん!!なんだよ、シンドバレーって!シリコンバレーかよ!!!」

と10年越しの突っ込みを自分に入れるまでは、全然わかってなかったんですよねー。

だから、あんまり「タイトル大事」って言っても説得力ないかもなんですが、、、

それでも最近本気で

「はあ??」

って思ったことがあったので、聞いてください。

事件は「新しいバイオリン教本2巻」の42番「わかれ」という曲で起きたんです。

こんなわかれは嫌だっていう曲想

新しいバイオリン教本を頑張ってくれている6歳の生徒ちゃんが、ある日42番の「わかれ」という曲を弾いてくれました。

彼女が演奏をし始めて数小節。

えーと。。。

別れって。。。。。

別れって。。。。。。。

なんか、こんな陽気な感じでいいんだろうか。。。。?

そう。

彼女は「別れ」っていうタイトルにも関わらず、ずいぶん楽しげにその曲を演奏してくれたんです。

そういうとき、普段ならば

「やだなー、この曲は「別れ」なんだから、もっと切なく弾かなくちゃー」

っと突っ込むのですが、

楽譜を見れば見るほど。。。。。。

いやあ。。。

陽気な曲ですよね、これ。。。。。

曲の感じからして、「別れ」って感じが全然しないんですよ。

6歳の子が深刻な別れを経験したことがないから、それを表現できないっていう次元じゃなくて、曲自体が軽やかな雰囲気にあふれてるんですよね。

これは、、、、

まさか、あれか?!

映画の残酷なシーンに、敢えて美しいモーツァルトの曲を流して恐怖心を仰ぐみたいな。。。

ギャップ技?!

と必要以上の深読みをした私の目に、その時入ってきたのは、オリジナルタイトルの

「Drunten im Unterland」 ドイツ民謡

の文字。

これはオリジナル曲を調査してみるしかない!

Drunten im Unterlandってどんな曲?

ドイツ民謡、Drunten im Unterland 見つけました!

Drunten im Unterland は、フリードリヒ・シルヒャー(1789-1860)が作った曲でした。

当時よく知られていた別の曲 "Draußen im Schwabenland"の旋律を引き継いで、4部で合唱のために編曲されたこの曲は、1836年に4人の男声のための「フォルクスリーダー」第5巻(作品26、第3番)(A版)に初めて掲載されたそうです。

歌詞を書いたのはゴットフリート・ハルトマン・ヴァイグル。

Drunten im Unterland は、ヴュルテンベルク州の素晴らしさを褒めたたえた曲で、すぐにドイツ語圏に広まり、今日に至るまで人気があるそうです。

 

おい、「わかれ」はどこ行ったよ(笑)。

 

歌の研究者ルートヴィヒ・エルクが、1844年に 「ドイツ全土に広まっている」と指摘したほどDrunten im Unterland のメロディーは広まりまくり、「何百もの変種」で伝承されているのだそうな。

歌詞の内容をざっくり言うとDrunten im Unterlandは、「ウンターラント」とそこに住む人々を称賛したもの。

当時、ドイツのヴュルテンベルク州の一部には "ウンターラント "と呼ばれる場所がありました。

そこは気候が快適で、ブドウがよく育つ地域だったそうです。

それに対して「オーバーラント」と呼ばれる地方は寒かったのだそうです。

ウンターランドの人々は貧しくはありましたが、「幸せで自由」、そして「愛に忠実」であったそうです。
そのため、ひとびとはそこで幸せに暮らしていたのです。

歌詞を書いたゴットフリート・ハルトマン・ヴァイレ自身もウンターランドの出身だったそうです。

シルヒャーの書いた民謡は、1820年代以降にヴュルテンベルク州で発展したドイツの男声合唱団運動のレパートリーに大きな役割を果たしました。

そのため、「Drunten im Unterland」も急速に広まっていったのです。
第二次世界大戦の終わりから1960年代半ばまでの間の期間についても、楽譜は高い頻度で出版されていることが確認されています。

 

ほんと、だから「わかれ」どこ行ったの?(笑)

 

歌詞がオーストリアの訛りと違う訛り方だったので、うまく訳せてるか(特に2番)心配なのですが、歌詞を日本語にしてみました。
間違い、ご指摘あれば、ぜひ教えてください!

Drunten im Unterland

Drunten im Unterland,
da ist's halt fein.
Schlehen im Oberland,
Trauben im Unterland,
drunten im Unterland möcht'i wohl sein.

ウンターラントは
良いところ
オーバーラントにはスピノサスモモ
ウンターラントにはワインのブドウ
ウンターラントは俺にとって最高の場所さ

Drunten im Neckartal,
da ist's halt gut:
Ist mer's da oben rum
manchmal a no so dumm,
han i doch Drunten alleweil
drunten gut's Blut.

ネッカー渓谷は
良いところ
俺の頭は
ときどきイカれてるが
ハートには熱い血が流れてるんだ

kalt ist's im Oberland,
drunten ist's warm;
oben sind d'Leut so reich,
d'Herzen sind gar net weich,
b'sehn mi net freundlich an,
werden net warm.

オーバーラントは寒いところだ
ウンターラントは暖かい
たしかにあっちは豊かだが
そこに住んでるやつのハートはどうだ
親切なんかじゃありゃしない
温かくなんかありゃしない

Aber da unten 'rum,
da sind d'Leut arm,
aber so froh und frei
und in der Liebe treu;
drum sind im Unterland
d'Herzen so warm.

ここウンターラントの
暮らしはそりゃ貧しいものさ
だけど俺らは幸せで自由だ
なにより愛に忠実だ
だからウンターラントの
奴らのハートは温かいんだ

オリジナルの曲を聞いてみよう

ダメ押しに(笑)「わかれ」、、、、Drunter im Unterlandの合唱曲を聞いてみましょう♪

だから「わかれ」は・・・(笑)(以下省略)

タイトルが大事だと思う意味

先日書いた記事で、練習する曲の作曲家を知っておくことは大事という意見を述べました。

スズキバイオリン教本2巻 リュリのガボットが全然リュリじゃない話
スズキバイオリン教本や新しいバイオリン教本も2巻まで進んでくると、テクニック的にも音楽的にも難解な曲が出てきますよね。 ...

それと同じくらい、タイトルもとても大事だと思うんです。

わかれ(Drunten im Unterland)に関しては、オリジナルの曲から考えるとまったく

「別れ」というイメージとはかけ離れた曲でしたよね。

でも、演奏家は「わかれ」とあったら、「わかれ」のイメージを伝えようと試みてしまうんです。

曲を深く知るための手がかりの一つとして、大切な情報の一つであるタイトルが、翻訳によってイメージを変えてしまうと、演奏家や聴衆の混乱を招く原因になってしまうのではないのかなあ、と思います。

そして、その結果作曲家の意図を伝えられない演奏になるという最悪の事態を招きかねません。

この「わかれ」に関しては、パロディの曲が世界中にたくさんあるとのことでしたので、その中の一つが「わかれ」テーマになっている歌詞があるのかもしれませんね。

でも、みなさんは演奏前に、この曲はオリジナルが「ドイツの地方を讃えた楽しい歌」だったことを知っておくとよいでしょう。

メロディーと「わかれ」というタイトルに違和感を感じることがあっても、タイトルに惑わされることなく、「楽しい雰囲気」で弾いてしまって問題ないと思います。

それでは、みなさん練習頑張ってくださいね!


コメント

タイトルとURLをコピーしました