ヴァイオリンでの二人の擲弾兵(The Two Grenadiers)の曲解説と弾き方

スズキヴァイオリン教本も2巻まで進んでくると、さまざまな曲想のものが登場してきます。

今まではリズムと音程にさえ気を付けてくれば、なんとか合格だったかもしれません。
でも、「二人の擲弾兵(The Two Grenadiers)を弾くくらいのレベルになったのならば、そろそろ音色にも気を配れるようになるとよいですね。

今日は鈴木ヴァイオリン教本2巻に入っている「二人の擲弾兵」の曲解説と、弾き方のヒントのお話をしようと思います。

二人の擲弾兵とは

そもそも二人の擲弾兵って何なんでしょう?

これ、読み方からして一瞬迷いますよね(笑)。てきだんへいって読むんです。17世紀にはヨーロッパ陸軍歩兵部隊の手りゅう弾を投げる兵隊のことを指していましたが、18世紀からは近衛兵や精鋭兵士を指す言葉になったようですよ。

えっ?じゃあ戦争の曲なのでしょうか?その割には随分と悲しげなメロディーで始まるような気がするのですが。。。

そうです!よく感じ取れましたね。この曲は、戦争をテーマにしているのではなく、別なテーマに焦点が当てられています。
オリジナルはハイネの詩をもとにシューマンが作曲した歌曲なんですよ。

なるほど!ではそのハイネの詩の中身とオリジナルの歌曲を知ることが、バイオリンで演奏をする上でも曲想を表現する助けになるということですね!

二人の擲弾兵の詩を読んでみよう

それでは早速、「二人の擲弾兵」の詩を読んでみましょう。
私が自分で訳したものなので、間違いがあれば突っ込み受付中です。。(笑)

ハインリヒ・ハイネ 1820年

Die Grenadiere
二人の擲弾兵

Nach Frankreich zogen zwei Grenadier,
Die waren in Rußland gefangen,
Und als sie kamen ins deutsche Quartier,
Sie ließen die Köpfe hangen.

フランスに向かう2人の擲弾兵がいる
彼らはロシアで捕らえられていたのだ
道すがら立ち寄ったドイツの宿屋で
彼らはひどく落ち込んでいた

Da hörten sie beide die traurige Mär:
Daß Frankreich verloren gegangen,
Besiegt und zerschlagen das große Heer -
Und der Kaiser, der Kaiser gefangen.

それは彼らが哀しい知らせを耳にしてしまったからだ
祖国フランスが戦争で敗北したと
あの勇敢な軍隊が破れ、叩きのめされただなんて
そしてあの皇帝が、皇帝が捕らわれただなんて

Da weinten zusammen die Grenadier
Wohl ab der kläglichen Kunde.
Der eine sprach: Wie weh wird mir,
Wie brennt meine alte Wunde!

二人は共に泣いた
その悲しい知らせに
一人が口を開いた :なんて痛みだ
古傷が燃えるように痛むんだ

Der andre sprach: Das Lied ist aus,
Auch ich möcht mit dir sterben,
Doch hab ich Weib und Kind zu Haus,
Die ohne mich verderben.

もう一人が言った :もうお終いだ。
俺だってお前と一緒に死んでしまいたいよ。
でも、俺には家に妻と子供がいるんだ。
あいつらは俺なしでは生きていけないんだ

Was schert mich Weib, was schert mich Kind,
Ich trage weit beßres Verlangen;
Laß sie betteln gehn, wenn sie hungrig sind -
Mein Kaiser, mein Kaiser gefangen!

妻だ?子供だ?
俺が思い描いている世界はそんなもんじゃない
妻子が飢えてるなら物乞いでもさせておけばいいだろう
俺の皇帝が、俺の皇帝が捕らわれたのだぞ!

Gewähr mir, Bruder, eine Bitt:
Wenn ich jetzt sterben werde,
So nimm meine Leiche nach Frankreich mit,
Begrab mich in Frankreichs Erde.

友よ、俺の願いを聞いてくれ
もし俺が今逝ってしまうのならば
俺の亡骸をフランスまで運んで
フランスの地に埋めてくれ

Das Ehrenkreuz am roten Band
Sollst du aufs Herz mir legen;
Die Flinte gib mir in die Hand,
Und gürt mir um den Degen.

赤いリボンがついた十字勲章は
俺の心臓の上に置いてくれ
手には銃を握らせ
ベルトには剣を下げてくれ

So will ich liegen und horchen still,
Wie eine Schildwach im Grabe,
Bis einst ich höre Kanonengebrüll
Und wiehernder Rosse Getrabe.

そうして俺は横たわり、静かに耳を澄ますだろう
墓の中の歩哨のように
いつの日か大砲が鳴り響き
嘶き駆ける馬の足音が聞こえるまで

Dann reitet mein Kaiser wohl über mein Grab,
Viel Schwerter klirren und blitzen;
Dann steig ich gewaffnet hervor aus dem Grab -
Den Kaiser, den Kaiser zu schützen.

すると皇帝が俺の墓の上を、馬に乗って駆けていくのだ
剣戟が響き、きらめき輝くだろう
武装した俺はその時こそ墓から立ち上がり
皇帝を、皇帝をお守りするのだ

二人の擲弾兵のオリジナルの歌曲を聞いてみよう

詩を読んだら。。。なんかもー、めっちゃ切ないですね。。妻子には物乞いさせとけ、のくだりはムカつきますが。。。

(笑)でも、これでなぜ後半にはフランス国家のメロディーが出てくるかわかったかしら?

あっ!後半のメロディーってどこかで聞いたことあるなと思ったら、フランスの国歌でしたね!

そうなの!フランス国家「ラ・マルセイエーズ」ね。ではここで、オリジナルの歌曲を聞いてみましょうか。

ドイツ語が分かる人は、歌詞と照らし合わせながら聞いてみてください。

曲想と詩の内容がピッタリと合っていて、鳥肌がたつ瞬間があるのではないでしょうか?

二人の擲弾兵、バイオリンではどう表現する?

ここまでこの曲を知って、未だ「リズムと音程だけ正しく弾ければいいや」と思っている人はいないでしょう!

死に瀕した一人の兵士。
耳にしてしまった絶望的な知らせ。
絶望の中でも消えない燃える国と皇帝への忠誠。

それをどんな音色で表現しようか、考えるだけでわくわくしてきませんか?

それを表現するための一つの方法として

・楽譜の下に、そのメロディーに対応する歌詞を書き込んでみる

のは有効かもしれません。

バイオリンは音しか弾くことができないので、歌曲のように歌詞を伝えることはできません。

でも、歌詞が聞こえてくるような演奏をすることは可能です!

だから、伝えたい歌詞を知っておくことはとても大事だと思います。

例えば「友よ、俺の願いを聞いてくれ」の箇所には、スズキのバイオリン教本にもp(ピアノ/静かに)とagitato(アジタート/情熱的に)が両方書いています。

静かに、しかし燃えるように強い意志で何かを伝える声色とはどんな音でしょうか。
そういうものをヴァイオリンで再現できれば素敵ですよね。

また、歌曲の後奏もじっくり聞いてみましょう。

この「もしも俺が今逝ってしまうのならば」と盛大に死亡フラグを立てていた一人の擲弾兵ですが(笑)、この人はどうなったのでしょう。

微笑むように、静かに消えゆく後奏から、フラグをしっかり回収して天国へ旅立ったことが予想されますよね。。。。

短い曲ですが、大きなドラマを表現することができる気がしてきました!

その調子です!

心のなかで、大きなドラマを描きましょう。
そしてその物語を語ろうとしてみてください。

きっと人々の心に響く「二人の擲弾兵」の演奏ができるはずですよ。

 

 

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